雪花-YUKIBANA-
「……なんか、母親ってすごいね」
「え?」
桜子の言葉に亜季さんが首をかしげる。
そっとお腹に手を当てて桜子はつぶやいた。
「恋の相手の“たったひとり”には、なかなか巡り合えないでしょ?
けれど子供にとっての“たったひとり”は、生まれた瞬間から――ううん、生まれる前から、みんなに平等にいるんだよね」
私、この子のお母さんになれて嬉しい。
と桜子は愛おしそうにお腹をなでる。
僕もコバも、そして世界中のどんな男でも、けっして味わうことのできない特別な感情を、桜子はただ静かに噛みしめていた。
「さあ、みんな。冷めないうちに食べて」
店長さんの声で空気が切り替わった。
僕たちは料理に手を伸ばし、その絶妙な味を堪能した。
子供たちはいつの間にか店長の奥さんになついていた。
仏頂面で子供の相手をする奥さんの様子が、なんだかすごく可笑しい。
「ねえ、ところで」
唐揚げを頬張りながらコバが言った。
「桜子ちゃんさ、あの3ヶ月間、いったいどうしてたの?」