雪花-YUKIBANA-

「ちゃんと持っててくれてたんだ」

「もちろん」

「どんな絵を描いてきたのか見たいなあ」

「嫌だ、見せない」

「なんでさ」

「なんででも」


すげない態度でそう言って、奥さんと遊ぶ子供たちの方へと行ってしまう桜子。


コバは額をペチンと叩いて、僕を見た。


「……まさか旅してたとは思わなかったっすね」

「そうだな。女ってタフだなあ」

「たしかに」


僕らの会話に、亜季さんがクスクス笑う。

亜季さんと桜子は正反対の性格をしているけれど、こういう笑い方は少し似ている気がする。


陸くんがプリンのさくらんぼを奪ったらしく、妹の泣き声があがった。

桜子は「あらあら」といった表情でそれをなだめている。


その光景を見たコバが、ふとつぶやいた。


「そういえば店長、籍はまだ入れないんですか?」


ズキン、と胃が手掴みされたように痛んだ。

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