雪花-YUKIBANA-
自宅療養、と簡単に言っては見たものの。
家事などを僕が一手に引き受けるようになると、
これまでいかに家のことを彼女に頼りきっていたか、痛感するハメになった。
「洗い物くらい私がやるよ」
桜子は主張したけれど
「ダメ!君は体を休めなきゃ!」
僕はむりやり彼女をベッドに戻した。
一番大変だったのは、ゴハンを毎食作ることだ。
けれど、どこか楽しい作業でもあった。
僕の作った料理が桜子の口に入り、赤ちゃんの栄養となる。
美味しい、と言って食べてくれる人がいるのは本当に幸せなことだ。
案外僕は、家事に向いているのかもしれない。
叔父や義弘、それにコバと亜季さんも、しょっちゅうお見舞いに来てくれた。
亜季さんは子供たちを連れてくることもあった。
あんなにヤンチャな陸くんも、なぜかうちに来ると行儀よく座った。
桜子のお腹の中の命を、本能的に気遣っていたのだろうか。
ある日曜日の夕方、コバがひとりでお見舞いにやってきた。
「珍しいじゃん、亜季さんが一緒じゃないなんて」
そう言うと、彼はもじもじと奇妙な仕草を見せた。
「実は……ちょっと今、亜季と気まずくて」
「どうしたの?ケンカ?」
桜子はベッドの上から、心配そうな視線を送る。