雪花-YUKIBANA-
「いや、まあケンカって言うか」
「ん?」
「こんど、陸の小学校で遠足があるんスけど……。
どうやら親同士の親睦会も兼ねてるらしいんですよ。
それに、俺もいっしょに行かないか?って亜季が……」
「それで、コバは何て?」
「まだ返事してなくって。だから気まずくなっちゃって」
情けないっす、とコバは言った。
こんな自分が嫌で仕方ない、といった感じの苦々しい表情で。
「つまりコバは、亜季さんのことは好きだけど、子供たちの父親になる覚悟はできていない……ってことだよな?」
「それは、違います」
きっぱりと言った。
「俺、子供たちのこと本気で可愛いと思ってます。
……けど、あいつらにとっては、俺みたいな頼りない男が父親になるのは、どうなんだろうって……」
太ももの上で拳を握りしめながら、コバは深くため息をついた。
愛情に迷いはないのに、どうしても思い切れないジレンマ。
彼の気持ちが僕にはよくわかった。
けれど……
「コバ」
僕の声にコバは顔を上げる。
「その迷いが大好きな人を傷つけているとしたら、辛くないか?」
「……」
「もっと大切にしなきゃ」
幸せは思った以上に儚くて、突然壊れてしまうもの。
どうして?と嘆いたときには失くしてしまっているんだ。
だから、大切にしなきゃいけない。
言葉だけじゃなくて、本当の意味で、大切に。