雪花-YUKIBANA-
「好きな人が自分のそばにいてくれるとさ、その幸せが当たり前みたいに思えるだろ?
けど、それが当たり前じゃない人だっているんだよ。
本当はすごく感謝するべきことなんだ」
もしかしたら僕は、自分に言い聞かせるつもりで話していたのかもしれない。
桜子がベッドの上でやわらかく微笑んだ。
「……そうですよね」
コバは言った。
「うん、店長の言うとおりっすよ」
何だかんだ言って根は単純な奴なので、いったん吹っ切れてしまうと、コバの表情はみるみる明るくなった。
「よし!俺、亜季に結婚申し込みます」
「おいおい、そこまで言ってないぞ俺は」
「いえ、自分の意思っす!」
本当に単純な奴だ。
まあこのくらいシンプルな方が、人生はきっと楽しい。
その日は3人で夕食を食べた。
コバは亜季さんへのプロポーズを、なぜか僕相手に練習した。
しまいには本気でキスまでしてきたから、僕は容赦なくコバの頭をゲンコツで叩いた。
バカバカしくて、楽しいひと時だった。