雪花-YUKIBANA-
コバが帰ると、家の中は急に静かになった。
騒がしい奴だけれど、いなくなるとけっこう寂しかったりもする。
ふう、と彼女は息を吐いた。
「大丈夫?ちょっと疲れた?」
「ううん、平気」
にっこり笑って首を振る。
僕はベッドの横に座って、彼女の髪をなでた。
「さあ、そろそろ寝た方がいい。明日は検診だろ?」
「うん。……けどまだ眠くないな」
「夜更かしはダメだよ。ママが不良だと赤ちゃんが泣くぞ?」
「パパがしっかり者だから大丈夫よ」
僕は参ったなという顔で笑う。
彼女の華奢な手が、ベッドの脇から現れた。
そして僕の手を探すように少し宙をさまよった。
握ってやると、彼女の細い指が僕の指にやさしく絡んだ。
「もうすぐ桜が咲くね」
「そうだな」
「あの公園の桜は、もう咲いたかな」
「さあ……今年は少し気温が低いから、遅めの開花だってテレビで言ってたよ」
「そう」
彼女は窓の外を見やる。
うっすらとした外灯と月が見えるだけで、春の景色は夜に隠れてしまっている。
「そういえば、ごめんな。桜子」
「何が?」