雪花-YUKIBANA-
「そうね、結婚。……楽しそうね」
「きっと楽しいよ。
子供が生まれて落ち着いたら、3人で少し遅めの新婚旅行に行こう」
「どこに行くの?」
「どこでもいい」
「あんまり遠い所は嫌だよ?知らない場所、苦手だもん」
「ひとりじゃないから平気だって。俺も、子供もいる」
「そうだね」
彼女は大きくふくらんだお腹を、そっとなでた。
「結婚式も挙げような」
「素敵ね」
「桜子のウェディングドレス、すごく楽しみだ」
「拓人のタキシードも」
「……似合うかな」
「どうだろうね」
「俺、そのときは桜子からもらった革靴を履くよ」
「うん」
彼女のまぶたがゆっくりと落ちていった。
「……寝れそう?」
「うん」
「そっか。ゆっくり眠りな」
僕は彼女の手を布団の中に戻した。
おやすみ、と小さな声がした。
「うん、おやすみ――」