雪花-YUKIBANA-
次の日は朝から肌寒くて、
テレビのアナウンサーは「冬に戻ったような天気だ」と言っていた。
新車を買いに行くというオーナーの付き添いで、僕は昼過ぎに家を出た。
最近めっきり出番の少なくなった、厚手のジャケットを着て行った。
こんな寒い日の真っ昼間から、しかも苦手なオーナーに付き合わされるなんて、本当についていない。
そう思っていたけれど、予想外の嬉しい出来事があった。
「成瀬。お前こんど子供が生まれるらしいな」
車屋でタバコを吸いながら、突然オーナーが言った。
「はい」
「そうか。それじゃ有給やらなきゃな」
「……は?」
「たまにはゆっくり休んで、家族サービスしてこい」
その場で飛び跳ねたいくらい、嬉しかった。
無理を言って休みをもらおうと思っていたのに、
まさかオーナーの方から、しかも有給として提案してくれるなんて。
僕は上機嫌で、早くこのことを桜子に伝えたかった。
その気持ちが通じたのか、予定より早く新車の手続きがすんで、
夕方前には解放してもらえた。