雪花-YUKIBANA-
……たしか、桜子の検診の予約が4時からだったはず。
今から行けば間に合うかもしれない。
叔父や義広の顔を見て、桜子を家まで送り届けて、それから仕事に向かおう。
僕はタクシーを拾い、病院の名前を告げた。
到着したのは4時過ぎだった。
きっとまだ帰っていないはずだ。
そう思いながら産婦人科の方に入っていくと、すぐに叔父の後ろ姿をみつけた。
「叔父さん」
僕は声をかけた。
叔父が、ゆっくり振り返った。
早く、今日の出来事をみんなに話したい。
きっと桜子も叔父さんも喜んでくれる――。
そのはずだった。
なのに、
振り向いた叔父の顔は、悲しみに強張っていた。
「……叔父さん?」
僕らは向かい合ったまま、言葉を交わせなかった。
人の話し声や物音が、なぜか遠ざかっていった。
何?なんでそんな顔してんの?
笑おうよ。
だってここ、産婦人科だよ。
命が生まれる幸せな場所だよ?
なのに、なんで悲しそうな顔――
「拓人」
後ろから肩をつかまれた。
義広だった。