雪花-YUKIBANA-

「ちょっと、話が……」


そう言われ、診察室の方に背中を押される。


何だよ?

みんなして、深刻な顔してさ。

変だよ?



扉を開くと、彼の義兄である山野先生が、いつものように座っていた。


けれど、表情はいつもの先生じゃない。

まったく違う。



非常に危険な状態です――たぶん彼はそう言ったと思う。


そして、緊急で入院の手配をしました、と続けた。


「危険……って?」


僕が訊けたのはそれだけだった。

声の出し方を、僕は忘れてしまっていた。


「妊娠中毒症がひどく悪化しています。
このままだと脳出血や子癇の可能性も――」


え……?何?

何を言ってるんだ?


「これ以上悪化すると――母体に――」


よく聞こえない。

耳鳴りがうるさい。


「――帝王切開――ただちに―胎児を――」


いや、意味わかんないし。


だって、桜子だよ?

僕たちの子供だよ?


昨日、笑って結婚式の話してたもん。


新婚旅行、親子3人で行こうねって、約束もした。


これから、幸せになるんじゃん。


なんで?

なんで桜子が――


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