雪花-YUKIBANA-
「大丈夫か?」
後ろで義広が言った。
……ううん、
全然、大丈夫じゃないっぽい。
義広の手がそっと肩に置かれた。
「すぐに、帝王切開を勧めたんだけど。
桜子ちゃんがさ、こんなに早く出しちゃうのはお腹の子がかわいそう、って」
「……」
先生が真剣なまなざしで僕を見る。
「現在、28週目に入っています。
たしかに早産ですが、すぐに新生児集中治療室で対処すれば、ほぼ命は助かります。
後遺症の心配も、おそらくないでしょう。ですから……」
そんなこと言われても、気休めにしか聞こえなかった。
僕はふらふらと立ち上がった。
けれど次の瞬間には膝から崩れ落ちていた。
「拓人!」
義広が僕に駆け寄る。
打ち付けた膝が痛い。
心も痛い。
視界に映った真っ白の床が、ぐらぐら揺れている。
「……大丈夫だから」
義広が言った。
「不安になる気持ちは痛いほどわかるけど、大丈夫だから。
お前がそんなんじゃ、彼女も赤ちゃんも安心できないじゃん」
「……」
「それに、主治医は誰だと思ってんの?」
先生の方を見て、義広は誇らしげに言った。
「俺が嫉妬するくらい、腕のいい兄貴だぜ?」