雪花-YUKIBANA-
「借金?」

「うん。言ったでしょう?数年前にお母さんが病気で亡くなったって……」


そのときの治療費がかさんでしまって、

とつぶやきながら、桜子は視線の先のつま先をぶらぶら揺らした。


飲食店のアルバイトに日々追われているという彼女の手は、
よく見ると小さなあかぎれができていた。


すべすべとした頬や膝小僧、
赤ん坊を連想させる彼女のやわらかそうな肌

――なのに手だけがやたら苦労をにじませていて、


僕はふいに、自分がこれまで出会ってきた風俗の女の子たちを思い出した。


どれだけ華やかに着飾っても、隠しきれない、
かさついた手の甲。


それがあたかも世間との境界線のように思えて、

僕はやるせない気持ちになる。



桜子はハアッと溜め息をついた。


「そろそろ引越ししなくちゃ」

「引越し?」

「うん。格安の長屋とはいえ、さすがに毎月家賃を払うのは厳しいから。
あそこは引き払って、親戚の家にお世話になると思う」


その言葉に、僕は目を丸くした。


「まだあの長屋に住んでたのかよ」

「そうだよ?」

「まさか、桜子ひとりで?」

「私ひとりで」
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