雪花-YUKIBANA-
「その子、前はどこの店で働いてたわけ?」
「いえ、どこにも」
「え?」
未経験者ですよ、
とコバが言った。
勤めている会社を辞めて、こちらの世界に来るつもりだという。
「……」
「店長?」
「……俺、こういうのって気がひけるんだよな」
ぼそぼそと僕は言った。
コバが首をかしげる。
「何に気が引けるんですか?」
「つまり……、未経験者を雇うことが」
コバの笑い声が上がった。
「店長って意外と甘いとこありますよねえ」
本人が決めたことなのだから別に気にする必要はない、
とコバは言う。
たしかにそうなのかもしれない。
僕だって、風俗で働くことを否定するつもりは毛頭ない。
けど、だったらどうして気が引けるんだろう?
――たぶん僕は、
ひとりの人間がボーダーラインを超えて、こちらの世界に来るのを、
目の前では見たくないのだ。
他人の人生に対して、
僕が放つゴーサイン。
その責任の重さを背負うほどの、覚悟はない。
「あ、来ました」
黙ったままの僕の肩越しに、コバが手を振った。
同時に女の子の声が背後から響く。
「いえ、どこにも」
「え?」
未経験者ですよ、
とコバが言った。
勤めている会社を辞めて、こちらの世界に来るつもりだという。
「……」
「店長?」
「……俺、こういうのって気がひけるんだよな」
ぼそぼそと僕は言った。
コバが首をかしげる。
「何に気が引けるんですか?」
「つまり……、未経験者を雇うことが」
コバの笑い声が上がった。
「店長って意外と甘いとこありますよねえ」
本人が決めたことなのだから別に気にする必要はない、
とコバは言う。
たしかにそうなのかもしれない。
僕だって、風俗で働くことを否定するつもりは毛頭ない。
けど、だったらどうして気が引けるんだろう?
――たぶん僕は、
ひとりの人間がボーダーラインを超えて、こちらの世界に来るのを、
目の前では見たくないのだ。
他人の人生に対して、
僕が放つゴーサイン。
その責任の重さを背負うほどの、覚悟はない。
「あ、来ました」
黙ったままの僕の肩越しに、コバが手を振った。
同時に女の子の声が背後から響く。