雪花-YUKIBANA-
「コバくん、お待たせー」

「おう、こっちこっち」


コバは手招きで女の子を呼ぶと、僕に目配せした。


まるで、善良な市民を裏社会に引きずり込もうとたくらむ共謀者のようで、気分が滅入る。


振り向くと、若い女の子の顔がふたつ並んでいた。


一重まぶたに愛嬌のある黒髪ボブの女の子と、

腰まで伸びた茶髪を大きくカールさせた派手めの子。


どちらが“マユミ”だろう……
とたずねるまでもなく、黒髪の方がニッコリ笑って

「初めまして、マユミです」

と頭を下げた。








「乾杯!」


コバの音頭を合図に、生ビールをいっきに飲み干す。


喉を流れて胃袋に落ちていく、よく冷えた液体、そして泡。


ドン!

ドン!

と、空になったジョッキをテーブルに置く音が、4つ響いた。


「……ふはあーっ」


唇の上の泡をぬぐいながら、マユミが幸せそうなため息をつく。


初対面どうしが席を囲むという多少の気まずさを、
なるべく陽気なムードでごまかそうとしているような仕草だった。


あるいは、緊張をごまかそうとしていたのかもしれない。
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