雪花-YUKIBANA-
……どうする?


僕の頭の中で、計算機が動き出す。


たいして美人じゃないけど中年ウケは良さそうだな、とか。

やっぱり気が引けるなあ、とか。

けれど売り上げを伸ばさなきゃ、来月の給料はどうなるんだ、とか……。


「――もちろん」

僕は言った。

「こちらこそよろしく。マユミちゃん」


その一言でマユミの顔がパッと輝く。


「よかったあ。お前みたいな普通のOLは不採用だって言われるんじゃないかと、ビクビクしてたの」


緊張のとけた表情でマユミが言った。


胸が、ちくりと痛む。

けれど、


「マユミちゃんみたいに明るい女の子なら、大歓迎だよ」


良心の呵責とは裏腹に、僕の口からはそんな言葉がスラスラ出てきた。


そして無意識に笑顔をまとっている僕……。



新しく運ばれてきたビールの、苦味と炭酸を口いっぱいに味わいながら、

僕はふと
三ヵ月後のマユミの姿を想像してみた。


緊張は払拭され、マヒしてゆく女の姿。


水分を失いかさついた手で、受けとる大金。


毒を含んだ甘い沼は、
ぷかぷか漂うことを許さない。


深く、

ただ深く
沈んでゆくだけ――。





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