雪花-YUKIBANA-
酔いはさめていたはずなのに、僕にしてはめずらしい、浮かれた提案だった。


たぶん、このささやかなキャンドルの火を、少しでも長く見つめていたかったのだと思う。


桜子は困ったようにはにかんで、言いわけするみたいな口調で言った。


「あのね、私、はっきり言って歌は下手なの」

「かまわないよ」

「笑わないでね?」

「笑うもんか」


たとえ君が大地の割れるような声の持ち主だったとしても、俺はその歌に耳をかたむけるだろう!

と演劇じみた口調で言うと、桜子は

「そこまでひどくないもん」

と頬をふくらませた。

「ごめんごめん」


笑いながらあやまって、彼女の頭をなでる。


キャンドルが溶けるのと同じスピードで、部屋中に睦まじい空気が溶け出していた。


「……じゃあ、歌うね」

「よろしく」


桜子は小さく咳払いすると、胸に手を当てて、すうっと息を吸った。
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