雪花-YUKIBANA-
「――…っ」


全身にじっとりと汗をかいていた。


しばらく動けずに、ベッドに寝そべったまま天井を見上げる。


なぜ、こんな夢を見るのだろう。

何度も何度も。


この家に戻ってきてからというもの、毎夜おかしな夢にうなされている。


父のいかにも神経質そうな顔や、
いらだつと貧乏揺りする癖。


そんなものまでが、夢の中ではくっきりと鮮明に描かれていた。


どうしてだろう。

10年間、顔すらまともに思い出したことがなかったのに。


父がこの世から去った日から、僕のあいまいな記憶はなぜか鮮明さを増している。


ゆるやかに消えていくのが思い出なら、
それをむりやり留まらせるのが死なのかもしれない。


僕はベッドの上で体を起こし、ぐるりと部屋を見回してみた。


大丈夫。

ここはもう、あの頃の部屋じゃない。


それを確認するように視線をめぐらせた。


壁には先日買ったばかりの時計が飾られ、どこにも生々しい血痕はなかった。


床は、ガラスが飛び散った畳じゃなくて、毛足の長いクリーム色のカーペットだった。


そしてドアのそばには、

女の子がぽつんと立っていた。
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