雪花-YUKIBANA-
話し終わる頃、

僕の体はやわらかくて温かいものに包まれていた。


桜子は細い腕を精いっぱい伸ばして、自分よりずっと大きな僕の体を包み込んでいた。


「……どうして、抱きしめるの?」


まるでいじけた子供のような、情けない声で僕はたずねる。


「拓人が震えてるから」


桜子の声はそんな子供をあやす、母親のようだった。


「泣きたいときは泣けばいいの。
ひとりで泣くより、誰かの胸で泣いたほうがいい」

「俺、泣いてないし」

「けど、震えてるよ?そして私は、あなたを温められる腕がある。
……抱きしめちゃ、いけない?」

「いけなくは、ないけど」


僕は、この小さくて少しお姉さんぶった女の子に、おとなしく抱かれておくことにした。


彼女の髪からは甘いフローラルの香りがした。


そういえばバスルームに僕のものとは別の、
小洒落た容器に入ったトリートメントが置いてあったっけ。


それを思い出したとたん、胸に熱いものがこみ上げた。
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