ラスト・ゲーム



「おはよう、元也!」


居間に踏み込むと同時に、母さんの明るい声。


「……はよ」

それに半ば寝ぼけたような声で答える。


「すぐ朝御飯できるから待っててね」

母さんはヤカンに水を入れ、それを火にかけた。



椅子に座って、無造作に広げられた広告を見る。


″5月7日 火曜日″


…確実に日にちは、過ぎていた。



俺だけが、取り残されている。

慌ただしく鍋をかき混ぜる母さんを横目に、そんな考えが浮かんだ。


…母さんは、もう平気なのだろうか。

気持ちを切り替えて、新しい日々を歩んでいける。


…強いと思った。



(母さんは…すごいな)



俺は深くまで闇に囚われて、まだまだ抜け出せそうにない。



…俺にも、母さんのような強さが欲しかった。








テーブルの上に、見慣れた茶碗が並べられていく。



…そう、いつものように。


前と変わらぬように。





…その時俺は、


気付いてしまった。






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