ラスト・ゲーム
─静まりかえる、居間。
止まった時間。
母さんの声が、静寂を破った。
「…あ…あたしったら…もう何してんのかしら」
馬鹿みたい、そう言って母さんは、笑う。
…絞り出したような、笑いだった。
「あ…あたしったら、ほんとおっちょこちょいよね」
俺は、何も言えず…ただ渇いた笑いを続ける母さんを見ていた。
落としたお玉を拾おうと、かがんだ、彼女の背中。
小刻みに、震えていた。
「…もぅー、ほんと馬鹿……っ」
母さんは、その場に、泣き崩れた。
…まるで…小さな、子どものように。
…平気なわけが、なかったんだ。
最も愛する人を失って、それを認められるはずが…
…なかったんだ。
俺はただ、そんな母の姿を…見ていることしか、出来なかった。
沸騰したヤカンが音を立て、やがて吹きこぼしを起こして、
…自ら、コンロの火を消した。