ラスト・ゲーム
俺は風に揺られたまま…その場に立っていた。
─どう言えばいいのだろう。
一つのパレット上で、いろんな色を混ぜすぎて…名の無い色ができてしまったような。
何だか、例えようのない気持ちが込み上げる。
麻子も、ただ俺の手をギュッと強く握って…何も言葉を発さなかった。
耳に染み付くのは、精一杯に鳴き続ける…セミの声だけ。
その鳴き声と共に、頭の中で、何度も何度も反芻するのは……
優しい、親父の顔だった。
俺たちはゆっくりと、親父の待つ場所へと近づいていく。
″早水 敦也″
その場所にどっしりと腰を落とした石には、親父の名前がハッキリと刻まれていた。
「………親父…」
自然と口からこぼれた言葉。
俺は刻まれてある名前を…自分の右手でそっと、なぞった。
『元也』
…声が、聞こえた気がした。