ラスト・ゲーム



まず俺の手にあるボールを、軽めに少年にパスする。

少年は体全部を使ってそれに飛び付き、少し不格好ながらも、ドリブルをついてゴールに向かう。

それを少女が止めようと小さな体をできるだけ伸ばして立ち向かった。


「お兄ちゃんパス!」



俺の手に戻ってきたボール。


─鮮やかなまでに、蘇る感覚。


麻子のディフェンスが完全につく前に、体を捻るようにしてゴールへと送り出した。




─パスっ!



爽快な音が、公園に響く。



「やったぁっ!」


跳ねるように喜びながら、少年は満面の笑顔で俺にブイサインを送る。

俺もそのブイサインを、満面の笑顔で受け取った。




太陽の光を浴びて気持ち良さそうに揺れている、ゴールリングのネット。


身体中、指の先までザアッと血が巡る。



…忘れていたものを、一気に呼び戻すかのように。





─今度は麻子側から。


ボールと地面が触れ合う、渇いた音が始まった。





< 202 / 209 >

この作品をシェア

pagetop