ラスト・ゲーム
俺も、こみあげてきた喜び、それがそのまま顔に出た。
「…じゃあな」
「うん!また後でね!」
麻子が教室に入っていくのを見送って、その場から立ち去ろうと踵を返す。
─その瞬間。
ふと、田原と目があった。
整った顔立ちの、田原の黒い目。
まるで強い光を浴びせられたようで、俺は何となく、目をそらしてしまった。
その時、俺の心にふと浮かんだ一つの疑念。
(…田原は……麻子を…?)
「元!」
振り返った俺に、教室からひょこっと顔を出した麻子。そしてそのまま、ニッコリと笑って言った。
「ありがと!」
ずるいよなぁ、麻子は。
それだけで、午後の授業中の俺の頭は、ほとんど麻子で占められるんだから。
…甘酸っぱいような、恥ずかしいような、そんな気持ちを漂わした俺は、まだ気付いていなかったんだ。
これから自分に覆い被さってくる黒い影に、
…気が付かなかった。