ラスト・ゲーム
ふりかえった麻子は、少し照れ臭そうに笑った。
確かに、昨日までは2つに束ねていた長い髪が、全くもって『ショートカット』と呼ぶにふさわしい姿になっている。
俺の視線に気付いたのか、麻子の真ん丸い2つの光がこちらを向いた。
「…何でそんな切った?」
今日始めてだ、麻子としゃべるの。
「ん~…だって、5月には最後の試合でしょ。ちょっと気合い入れようかと思って。」
一息にそう言って、またはにかんだように笑う。
練習の直後だからか、麻子の頬には蒸気してほんのり赤みがのぞいていた。
「ねぇ、元」
「ん?」
「…似合う?」
小さく、少し不安気に尋ねる麻子の声。
長い髪もよかったけど、ショートはかえって麻子の明るいイメージを際立たせている。
「…猿みてぇ」
口から飛び出したのは、そんな考えとは全く違った言葉。
「猿みてぇって…あんたそれ女の子に言う言葉?
」
「じゃあ…おサルさんみたいですね」
ものすごい勢いで、麻子のカバンが飛んできた。
「一緒じゃん」
──パスっ!
今日も麻子のフリースローが円を描くようにキレイにきまった。