ラスト・ゲーム
俺の気持ちも、風に煽られたように、波立つ。
『麻子のことが、好きなのか?』
「好きだよ」
俺は田原の言葉を塗り潰すように、力強くそう言い放つ。
麻子への気持ちは、誰にも負けない。
…譲れないんだ。
「早水は聞かないの?…俺に」
背を向けて遠ざかろうとする俺の背中に、田原は呼び掛けた。
「…聞かなくても、わかるよ」
「…そっか」
すこしふり向いた俺に、田原は見開いていた目の端を緩めた。
俺たちは、それを合図にするかのように、違った方向へと歩き出す。
…お互いの、強い気持ちを秘めて。
階段をかけ上がり、教室の机に無造作に置いてあるバスケットシューズを掴んだ俺の腕。
なぜだか急にその場に留まれないような気持ちに襲われて、体育館まで、全速力で走る。
抱いた気持ちは妬みとかそんな陳腐なものじゃない。
劣等感なんて、そんなむずかしいもんでもない。
─焦燥。
ただ、それだけ。