ラスト・ゲーム
俺が一階に着くと同時に、勢いよく玄関のドアが開く。
見慣れた親父の優しい顔が、ドアの隙間から覗いた。
「おかえり!」
俺はまるで主人を待つ忠犬ハチ公のように、身を乗り出して親父を迎え入れる。
「ははっ、なんだ元也!何かあったのか」
スーツ姿の似合わない親父は笑いながら、忠犬、元也にカバンを渡した。
古びたカバンは、ずっしりと安定した重量を持っている。
その重さは、親父にとても似合っていると思った。
「…親父」
親父のカバンに視線を落としたまま、小さく呟く。
「勝負、してよ」
喉がゴクリと、音をたてる。
玄関の鈍く黄色い光がつくる二人の影は、とてもかすかで朧気だった。
「…今すぐ」
少しほつれた持ち手を、ぎゅっと握る。
視線を下に向けたままだったが、ふやけた笑顔だった親父の顔が真剣味を帯びたのが、空気でわかった。
「何か、あったのか」