ラスト・ゲーム
「ちわーっす!」
…青木、だった。
俺はすぐに麻子から手を離す。
離した所から体温が逃げて、指先が名残惜しそうに空をかいた。
「先輩、今日も早いっすね!」
「………………。」
…おい、青木。
お前のそのタイミングの悪さは何なんだ。
一種の、才能か?
「じゃ、ね。」
麻子は自分で起き上がり、短い髪を揺らして、俺の前を走っていった。
…俺の気持ちを、ここに残したままで。
先ほどまで右手に感じていたぬくもりが、少しずつ、立ち上って消えていってしまうのを感じた。
「先輩っ!よかったらパス練習付き合ってくれませんか」
ニコニコしながら、近寄ってくる青木。
…青木、確かにお前は、憎めないヤツだ。
「…ああ。付き合ってやるよ、………タップリとな」
…憎めないヤツ、だった。
俺はそう言うと、青木に組かかって四の字堅めを繰り出した。
…たった三文字の言葉を伝えるのって、何て難しいんだろう。