ラスト・ゲーム
「元!」
笑顔が、胸に響く。
麻子を見るのを久しく感じてしまう。
…ただ、朝会わなかっただけなのに。
「あ、朝ごめんな。えと……追試でさ」
…追試を少し、小さく言った。
そんな俺に、麻子はやっぱりねと笑いながら…急に真剣な顔に、なった。
「あのね、そうじゃなくて…今日、一緒に帰れないんだ…」
申し訳なさそうに肩をおとす麻子。
Tシャツの裾が、シュンとしおれる。
「………、」
「ごめんね…ちょっと、用があって」
何でかって、本当は詳しく聞きたかったけど、俺は平静を装った。
「あ、そう。……気ぃつけて帰れよ」
「…うん」
安堵したような、眉を下げた緩やかな笑み。
下へと駆け降りていく、スラリと伸びた麻子の足。
…彼女の姿が消えたあとも、俺はその階段をしばらくじっと見つめていた。
余裕が無いと見られるのは、嫌だから。
″何で?″
…聞けない俺は、弱虫だったのかな。