ラスト・ゲーム
もうこのまま永遠に眠ってしまいたい。
…という気持ちとは裏腹に、人間というものはどんなに落ち込んでいても、腹は減るらしい。
俺はそんな自分に呆れながら、ダルさが抜けない身体をベットから引きずり出した。
居間には誰もいなかった。
多分、俺がいつも朝練で早く家を抜け出すため、親父も母さんも、俺がまだ家の布団にまるくなっているいるとは思わなかったのだろう。
俺は棚を探り、賞味期限がギリギリ─正確には昨日、俺の家では賞味期限の3日後までが賞味期限だ─のあんパンをかじった。
あんパンは昔から、親父の好物だった。
中でも好きなのはこし餡で、つぶ餡のツブなんてのは邪魔だとか、喉ごしの問題だとかなんとか熱く語っていた。
─本当に似合わない、親父とあんパンの組み合わせ。
テレビをつける気にはならず、ただ静まり返った居間には、あんパンと俺の、二人だけが存在していた。