月と太陽の事件簿15/人形はなぜ捨てられる
昼になってから、あたしたちは仁藤隆の診療所を訪ねた。

診察室が面会の場となり、あたしと達郎は、まるで患者のようにイスに座って、仁藤と向かい合った。

仁藤は恰幅のいい医師だった。

「私はもともとこの辺りの出身でしてね。3年前に里帰りしたんですよ」

それまでは都内の病院に勤めていたが、過労とストレスで、体調を崩してしまった。

そこで思い切って退職し、この地に診療所を開いたそうだ。

「ここは自然が多く空気もいい。おかげで健康を取り戻しましたよ」

医者が治療をしてもらいましたと笑った。

「仁藤さんは鳥海さんの主治医をされていたそうですが」

あたしがそう切り出すと、仁藤は神妙な面持ちになった。

「鳥海さんは本当にお気の毒でした」

往診の時間を早めていれば、いやホットラインを使ってくれればと、タメ息をつく。

診療所を開いた時、すでに広義の妻は亡くなっており、その頃からもう広義は体調を崩していたという。

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