月と太陽の事件簿15/人形はなぜ捨てられる
確かに不可能な話じゃない。

あたしは以前、ドアノブにかけたタオルで首を吊った人気アーティストのことを思い出した。

「鳥海広義は息子夫婦から手厚い介護を受けていた。しかし同時に、寝たきりになったことを申し訳ないとも思っていた」

それは広義の言動からも明らかだ。

500万円の生命保険に加入したのも、息子夫婦に対する贖罪の気持ちがあったからだ。

「息子夫婦に負担をかけているという想い、寝たきりになった自分の、この先に対する不安…それらが積み重なったことによって、広義は死への衝動に駆られたんだろう」

「でも、広義の遺体は外で見つかったのよ」

「だから当然、運び出した人間がいるのさ」

「それって…」

「そう、鳥海夫妻だ」

「一体何のために」

そう訊きかけてハッとなった。

「もしかして保険金?」

「だろうな」

生命保険というのは普通、被保険者が自殺した場合は受取人に保険金は支払われない。

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