歴史の星空に飛び込んで
困っちゃうなぁ、と、沖田さんは眉を下げて笑った。
さっきから困ってるのは私のほうですってば。と、私も笑って、それからどちらともなく体を寄せ合った。沖田さんの背中に手を回し、体温を感じとる、鉄くさくて、血でベトベトで、何もかもが無常に感じた。
二人で生きていけたら、どんなに幸せか。
こんなにも、こんなにも幸せなのに、すぐに直面する、深い闇、沖田さんと隣り合わせの死。
新選組一番隊組長として生きた彼は、どんな風に今を思い過ごしてるんだろう。少しでも、少しでも、楽に出来ていたら、いいのに、
私なんかじゃ、微力で、何も出来なくて、不安になって沖田さんの顔を見上げると、そこには、いつもみたいに優しく微笑む沖田さんがいた。
不安なんて吹き飛んでいった、助けられるのはいつも私の方だった。
そんな私の心を知ってか知らずか、沖田さんはくちを開く、言ったでしょう?と。
「君が助けてと言ったから、私は全力で君を守ります。」
だから、泣かないで、
君の笑顔が好きなんです。
誰よりも愛してる。
沖田さんは、そう言った。
自分が泣いてる事にも気付いてなかったみたいで、私は慌ててゴシゴシと目を擦った。
愛してる。
余韻に残るその響き、沖田さんを見れば、ずっとずっと見て来た笑顔がそこにあって、
自然と私の頬も緩んだ。
沖田さんの笑みは、いつも緩い。
近藤局長にも似てるし、土方さんにも少し似ている、
山南さんも、こんな表情してた。
「幸せです。沖田さん」
揺れる声が、沖田さんにちゃんと届いただろうか。
「菅野さん」
「はい」
「みたらしだんご食べたいです」
「じゃあ後で買ってきますね」
「懐かしいですね」
「そうですね、いつも沖田さんが買ってきてくれたから」
「菅野さんの喜ぶ顔が可愛かったから」
「またからかって」
くっくっく、と肩を揺らして笑う沖田さん。にっこりと細めた目を開いて、沖田さんの瞳いっぱいに藤の花をうつした。
「綺麗ですね」
わたしは庭に背を向けていたので、起き上がって、沖田さんと同じものを視界にうつす。
薄紫の藤の花、
「近くでみたいな」
沖田さんはのそりと起き上がった。