サクラ咲ク
二、松虫草 [喪失]
近々取り壊される予定のビルの廃墟の屋上から、いつもより近くに星空を見上げる。
そっと空に手を伸ばす。
それは、小さい頃からの癖だった。
きらきらと光る星を夜空に見つけると、手を伸ばして掴もうとした。
届くと、思っていた。
届かないと知った今でも、
つい無意識に星に手を伸ばしていた。
始めから、届くはずなんてないものなんて、なければいいのに。
星も、空も、夢も。
届かないものばかり。
愛、というものがあるとしたら、私にはそれすら遠い。
伸ばしていた手を降ろして、ふと思う。
私が死んだら、誰か悲しんでくれるだろうか。
友達、学校の先生、近所の人…思いだそうとしても、ぼんやりと靄がかかって思い出せない。
だけど、きっとみんな涙する。私の死を嘆いてくれる。
そして一ヶ月もしないうちに、私のいない世界が、正しい世界に変わる。
人は、そうやって世界を更新して生きていくから。
それで、いい。
忘れてくれたほうがいい。
私なんか、最初からいなかったみたいに。
そんな世界で、いいと思う。
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