サクラ咲ク
「土方さん?いる?」
襖の向こうでガサリと物音がして、襖が静かに開いた。
「なんだ、平助か。どうした?」
訝しげに眉を潜める土方さんに、俺は「話がある」と伝えて中に入った。
「…で?話とは何だ?」
「あー…えっと…悠希のこと、なんスけど…」
悠希、という名を出した途端その瞳が鋭くなった。
そんなに敵意剥き出しにしなくてもいいのに、と思って、俺は眉を潜めた。
「あいつがどうした?」
「いや…あのさ。もう疑う必要ないような気がして…」
そう言った俺に、土方さんは呆れたようにため息をついた。
「あのなぁ…なんか吹き込まれたのか?」
「違うって!本当に、悠希はいい奴なんだって!」
「いい奴だろうと、間者の可能性は充分にあんだろうがよ。」
はぁ、とため息をついて机の上にある書類に目を落とした土方さんに僅かな苛立ちを感じる。
「…土方さんは、悠希と話したことねぇからわかんねぇんだよ。」
「はっ…平助、お前随分と悠希に御執心だな。」
「…もういい。今の土方さんに何話したって無駄だし。」
音を立てて立ち上がり、襖を開け放つ。
「…平助、」
土方さんが俺の名を呼んで、思わず足を止める。
「生まれも、親も、本当の名すらわからねぇような奴、どうやって信用すんだよ。」
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