サクラ咲ク



静かな沈黙が、小さな部屋の中に広がった。



ただ、頭を下げて、固く拳を握り締める土方さんの姿が、苦しかった。





「・・・待て、と言われましても、もう約束の日はひと月を過ぎました。」



未だに頭を上げない土方さんを、麗くんはただ見据えていた。




私もただ、その黒く長い髪を見つめた。




鬼の副長と恐れられ、プライドの高い土方さんが、頭を下げている。



それは、近藤さんの威厳を守る為。



大将の名誉を守り、その責任を一人で背負う。





「・・・麗くん・・・・」





堪らなくなって、麗くんの着物の裾をそっと握る。



そんな私を、麗くんは暫く見つめ、呆れたように溜め息をついた。




「・・・本来ならば今すぐにでもお支払いをして頂きたいところですが、わたくしの母がこちらの酒井悠希を気に入っておりまして・・・これも何かの縁でしょうし、もう少しお待ち致しましょう。」



「れ・・・麗くん・・・?」



驚いて目を見張る。



「かたじけない・・・恩に着る。」



「いえ、お気になさらず。ではわたくしはこれぐらいで・・・」




まるで蝶がふわりと舞うように、麗くんは綺麗に頭を下げ部屋を出て行った。



「あっ!あの、お見送りしてきます!!」



二人にそう告げてわたくしも慌ててその後を追いかけた。





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