サクラ咲ク


「麗くん!!待って!!!!」



乱雑な音を立てて麗くんに駆け寄る。



「何?」



麗くんは不機嫌そうに立ち止まり私を見た。



「あの・・・有難う。」



私の存在なんてきっと言い訳。

最初から、麗くんは約束の期間を伸ばすつもりで来たんだと思う。



私の名前を出したのは、私の居場所を守る為なんじゃないかな。


私が立花呉服屋と繋がっていれば、壬生の人たちも私を無碍には扱えない。


そんなの、私の都合のいい妄想かもしれないけど。





「・・・お人好しも、度を過ぎたらただの馬鹿だよ。」




呆れたように言って、麗くんは私の髪に触れた。


驚いて目を見開くと、麗くんは私の髪から手を離した。



「・・・綿がついてたから。それじゃあ、もう帰るから。」




なんだ・・・
綿かぁ・・・


ちょっとびっくりしちゃった。




「うん。本当に今日は有難う。もう暗いし、気をつけて帰ってね。」



夏とはいえ、辺りはもう真っ暗。


現代でいう8時は当に過ぎていると思う。



濃藍のベールに光を撒き散らして。




麗くんは何も言わず、歩き出した。




その背中が見えなくなるまで見送り、私も部屋に戻った。





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