サクラ咲ク
「おい。“こんな場所”って、どういう意味だ?」
土方さんが真っ直ぐ、私の喉元に刀の先を突き付けて尋ねる。
その銀色が、鈍く光った。
もう、戻れない。
ああもう。
人なんて、大嫌い。
「やめろよ。」
静かな声が、夜のけだるさの中を這う。
冷静で、だけど怒りを堪えたような。
「悠希のこと、泣かせてんじゃねぇよ。」
その温かい手が、私の肩を後ろから掴んで、庇うように誰かが私の前に立つ。
色素の少し薄い、綺麗な髪が、はらりと風に揺れた。
「刀おろせ!!!!!!」
怒鳴った彼に、土方さんはただ冷たい視線を送った。
「悪いがこれは俺達壬生浪士組の問題。立花殿は、黙っていてもらいたい。」
「はっ。正気?あんたらがうちにどれだけ借金してるか、分かってるだろう?」
嘲笑うように言って、麗くんは恐ろしく冷たい笑みを浮かべた。
「借金返済は待つと言ったのは、悠希がこちらに世話になってるからだよ。悠希がこうなった今・・・・もうその約束も破棄されたことになる。」
麗くんは土方さんが目を逸らし、後ろで苦い表情を浮かべる近藤さんを見つめた。
「悠希は、俺が貰うよ。」
近藤さんの瞳が、ぐらりと揺れる。
返事を待たずに、麗くんは私の手を引いて歩き出した。
追ってくる人も言葉もなく、ただ私と麗くんが踏み締める砂利の音が、夜に響いた。
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