先生の天使
「黒井…」

小さな声で裕二が言った。綾香は裕二の後ろで微かだが震えている。

以前、黒井のせいで二人は別れる危機に陥ったのだ。
それ以降は特に噂も聞いてなかった。
考えて見れば黒井の家はここからそう遠くない。

2人の前に止まって黒井は笑顔で言った。

「綾香ちゃん、免許おめでとう」

綾香はギクリとする。
勿論あれ以来黒井とは連絡も取ってない。知ってるはずないのだ。
綾香の手は恐怖でガクガクと震える。
裕二は背中でそれを感じ取る。

「何で知ってるんだよ」

黒井はにっこりと言った。

「綾香ちゃんのことは何でも知ってるんだよ」

裕二はむかむかと怒りがこみ上げる。

「お前…ストーカーかよ?」

黒井はそんな裕二の言葉を受けて言った。

「綾香ちゃん、裕二はもう病気治らないし、綾香ちゃんが苦労するだけだから、こっちおいで」

と手を差し出す。
綾香は恐怖がピークになる。
何を言っているんだろう?この人は…何でもってどこまで?
綾香は足の力が抜けていく。慌てて裕二が支える。
「綾香」
「う…うん…待ってね、今…ちゃんと立つから…」
しかし身体はガクガクと震えが止まらない。

裕二は咄嗟に綾香を抱っこして自宅に走った。
黒井は追っては来なかった。
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