忘れられない人
返事を確認した直後、柄にもなく「お姫様抱っこ」なんかして陽菜を抱き上げた。

『えっ!?下ろして!!重いでしょ?』

『そんなことないよ。見掛けより軽い(笑)』

『何それ!!全然フォローになってない』

そう言って抵抗する陽菜をよそに、俺は自分の部屋まで連れて行った。陽菜をベッドに寝かせ、その上に俺が覆いかぶさると両目を瞑って少し震えていた。

『優しくするから』

そう言って陽菜のおでこにキスをすると、久しぶりに目が合った。少し微笑みあった後、もう一度おでこにキスをして、耳にキスをして、唇にして、首にして‥‥徐々に顔を下に下ろしていった。


胸の辺りに唇が到達したとき、陽菜の感じている声が聞こえた気がした。でも、その声と同時に違う音が、部屋の外で鳴り響いているような気がしたから俺は一度体を止めた。

静まり返った俺の部屋。でも別の部屋で軽快な音が鳴り響いていた。

『私の‥けいた‥い?』

陽菜は乱れた呼吸を整えながら上半身を起した。

『そうみたいだな。会社かもよ?電話に出た方がいいんじゃないか?』

『で、でも‥?』

『大丈夫だからさ』

微笑んで平然なフリをした。そんな俺を見て「ごめんね」ともう一度謝って俺の部屋を飛び出した。

『平気なわけ‥ねぇ~だろ?』

俺は、さっき陽菜が横になっていた場所に飛び込み、陽菜が残していった匂いをかいでいた。

< 100 / 140 >

この作品をシェア

pagetop