忘れられない人
しばらくすると陽菜が俺の部屋に戻ってきた。でも様子が少し変だ。心配になった俺は陽菜に問いただした。

『どうした?電話、誰からだったんだ?』

『あっ、うん‥会社の人だった‥』

両手をクロスさせて肘を持っているときは、大抵嘘をついている時にするポーズだ。
このまましつこく追求するか?
それとも少し様子を見るか?陽菜の心配をしていると

『ごめん。今日のデートはここまででいい?ケーキ食べすぎちゃってお腹痛くなってきちゃった』

無理して笑っているのがバレバレ。でも、必死で何かを隠そうとしている陽菜をこれ以上苦しめることは俺には出来なかった。

『そっか。分かった。今日は楽しかったよ。それからプレゼントもありがとう。大切に使おうな』

『あっ、うん。私の方こそお願い聞いてくれてありがとう。たまには家でゆっくりデートするのも新鮮でいいね』

『だな。今日は、薬飲んでゆっくり休め!いいな?』

『うん‥‥えっと‥』

『ん!?』

『ううん。‥おやすみなさい‥』

そう言って俺の部屋の扉を閉めて出て行った。

最後に何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった。きっと「俺に心配掛けたくないから」とか言う理由だろうけど‥それが余計気になるって言うんだよ!!

大丈夫かな‥陽菜‥

俺はポケットの中に仕込んでおいた小さい箱を優しく握り締めた。


結局その日は、陽菜は部屋に閉じこもったまま出てこなかった。
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