忘れられない人

恋の行方

『今さら‥どうして?』

携帯を握り締めて部屋の隅で小さく蹲っていた。

『私はさっき‥龍二に何て言おうとしたんだろう‥』

両手を頭の後ろで組んで、更に自分を小さくした。


心配を掛けたくないから「言わないでおこう」という想いと、心配を掛けない為にも「全てを話す」という行為。

どっちを選択した方が龍二の為になっただろうか。私が選択した「言わないでおこう」という想いは、果たして龍二の為になっているのだろうか?

悩み疲れた私は、そのまま深い眠りについてしまった。


朝目覚めると、フカフカのベッドの中にいた。龍二が私を抱き上げてベッドまで運んでくれたんだろう。重い体を起しキッチンへと向かった。

二人分の朝食を作り、「少し風にあたってくるね」と書いた手紙を、龍二のお皿の下に置いた。そして、龍二の部屋の前で小さく

『おはよう。昨日はありがとう』

それだけ言って、家を出てすぐの公園へと向かった。


徒歩5分で着く公園には、まだ誰もいなかった。それもそのはず。今日は休日で、しかも時間は8時30分をまわったくらいだ。こんな時間から子供をつれて散歩に来る大人などいない。子共だって朝のアニメを見たいから外にはまだ出てこないだろう。

それを分かっていたから、私はこの時間帯のここの公園を選んだのだ。


最初に向かったのは滑り台。
小さくて座ることが出来なかった。それでも知恵を絞って、しゃがみ込んだ状態で滑り台で遊んだ。

次に向かったのはシーソー。
もちろん一人でシーソーで遊ぶ事は出来ないので、真ん中に立ち、左右に力を入れて自分の力で遊具を動かした。

最後に向かったのは‥ブランコ。
遊びつかれたこともあり、前後に揺り動かして遊ぶのではなく、携帯を両手で強く握り締めて‥ただ静かに腰を下ろしていた。


しばらくしてから大きく深呼吸をして‥携帯を開いた。そして、着信履歴の一番上に表示されている人に‥私の方から電話を掛けた。

7回目の呼び出し音の途中で「もしもし?」と言う声が、電話の向こうから聞こえてきた。
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