忘れられない人
『も、もしもし!?陽菜です。‥今‥電話してても大丈夫‥ですか?』

短い沈黙の中で相手の様子を伺った。

『今はちょっと‥。ごめんね?後で掛け直す』

それだけ言われて電話が切れた。相手の事を考えずに、こんな朝早くに電話なんて迷惑だよね‥悪いことしちゃたな‥‥自分のとった行動を凄く反省した。


しばらくの間、ブランコの鎖を両手で掴んで前後に揺り動かして遊んでいた。何も考えずに無我無心で。

遠くの方から甲高い子供の声が聞こえてきて、その声で我に返った。「今何時だろう?龍二、起きたかな?」時間を知るために携帯を開いた。いつの間にか公園に来てから1時間も経過していた。

龍二のいる家に帰ろうと思っているのに、立ち上がることが出来なかった。体が言うことを聞かない。どこかで、このまま何事もなかった顔で龍二に逢うことを拒んでいた。

『このままで良いはず‥ないよね‥?』

ブツブツ独り言を言いながら、携帯のディスプレイをぼんやりと見ていた。すると、そこに一本の電話がかかってきた。瞬時に「龍二」からだと思い通話ボタンを押そうとした。でも、よく見ると‥別の人物からの電話だった。


『俺だけど‥今、大丈夫?』

『あっ!!‥‥はい。大丈夫です』

私が返事をした後、どっちが先に話題を切り出すか様子を伺っていた。

電話越しからも感じる思い重圧に、先に耐えられなくなったのは私だった。とりあえず、さっき迷惑をかけてしまった事について謝ろうと思い、話し出した。


『あの‥さっきはごめんなさい。あんなに朝早くに電話なんて‥迷惑でしたよね?』

『いや、そんなことないよ。ただ、ちょっと仕事がバタバタしててさ』

表情は見えないけど、声は明らかに今までとは違っていた。そのことに気付いてしまったが‥気付かないふりをした。

『そうだったんですか‥』

そして再び長い沈黙が続いた。
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