忘れられない人
私は公園の中にある砂場で遊んでいる子供を見つめていた。一生懸命、砂を積み重ねて大きな山を作っていた。でも、少し大柄な子供が近くに来て、折角積み上げた砂の山を、その大柄な子が足で踏み崩してしまった。

その様子を一部始終見ていた私は、思わず「あっ!」っと言う声を上げてしまった。

『どうした?』

心配した声が電話の向こうから聞こえてきた。その声で我に返り、通話中だったことを思い出した。

『いえ‥何でもないです』

相手には声しか届いていないのに、右手を前に出して左右に振っていた。

『どうせ他のものにでも気を取られていたんだろ?例えば‥子供とか(笑)』

『ど、どうして分かるんですか?もしかして近くにいる?』

私はその場に立ち上がって、公園の中を見渡した。でも、その人らしい人影はなかった。

『慌てるって事はやっぱり‥電話中に良い度胸してるな(笑)』

『ごめん。でも、どうして子供って分かったの?』

首を傾げながら聞いた。だって、私が公園にいることも、子どもがいる事も言っていないのにどうして分かったのか知りたかったから。

『それはな‥』

『うん!!』

背中からゾクっとする冷たい寒気を感じて、私の背筋がピンと伸びた。


『ヒミツ(笑)』

『はい!?』

予想もしない返答に少し苛立ちを抱いた。

『ヒミツって‥』

『そうだな~‥じゃあ、俺と一日デートしてくれたら教えてあげても良いかな』

突拍子もない言葉に思わず噴き出してしまった。

『何それ。本気?それとも冗談?(笑)』

私はお腹を抱えて笑った。すると、二人の間に流れていた空気の温度が変わった。さっきよりもずっと軽くて‥暖かくなった。


『やっと笑ってくれた』

『へっ!?』

『だってお前、いつもより声のトーン低いし、普段使わないような丁寧語とか使うしさ』

『それは‥』

私が言いかけたとき、相手の声と重なってかき消されてしまった。
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