忘れられない人
『昨日はごめん。お前を困らせるつもりなんて本当になかったんだ。でも‥昨日、俺が言った事は本気だ!!もう一度言う。俺は今でもお前が好きだ。そして‥これからもずっと。
お前を連れて異動先の長野県に行きたいと思っている。一緒について来て欲しい。お前は、安心して俺の傍で笑ってくれればいい』


『わ、私は‥』

『迷ってるって事は少しでも可能性があるってことかな?』

頭を大きく横に振った。でも、今は電話中だから声に出さないと思いが届かない。私は下唇を強く噛んで正直な思いを伝えた。


『私ね‥あなたと再会してから、少しずつ変われた気がするの。今まではね、自分が傷つきたくないから本心を偽っていたの。でもね、本当はそれが一番自分を傷つけることなんだって漸く分かったんだ。

一人だと弱い人間なの。昨日のリュウジからの電話の事、今こうしてリュウジと電話をしている事‥‥彼に話していないんだ』

『それって‥』

『ううん。昨日まではね、彼に心配を掛けたくないから‥だから秘密にしておこうと思っていたの。でもね、この後正直に話そうと思ってる。彼を‥彼だけは失いたくないから。彼が私の傍にいてくれれば他に欲しいものなんて何もない。だからご‥』


『ごめんなさいは、もう聞き飽きた』

『ごめんな‥』

そこまで言ったとき、思わず自分の口を塞いだ。

『謝るのはお前の口癖だな(笑)』

『‥‥‥‥』

いい言葉が思いつかなくて無言になってしまった。

『なぁ、陽菜‥‥今まで本当にありがとう。もう連絡することはないと思う。いや、寂しくなったら電話するかも(笑)』

『はははぁ~何それ(笑)』

少し笑った後、真剣な表情で言った。


『リュウジ。たくさんの思い出をありがとう。大切な気持ちを私に教えてくれて本当にありがとう』

『おう!それじゃあ‥元気でな?』

『リュウジも元気でね?』

『おう!!』

先に電話を切ったのはリュウジの方だった。
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