忘れられない人
「人を好きになる」という大切な気持ちを私に教えてくれた人を永遠に失ってしまった。悲しくて現実をすぐには受け入れることが出来なかった。でも、引き返すという選択は私には用意されていなかった。悲しくても前に進まなければいけない。

涙が零れ落ちそうだった。でも、ここで泣いたら私の負け。私の選択は間違ってはいないという証に、決して涙を流してはいけないと強く思い、空を見た。


雲がゆっくりと動いているのが見えた。
風を肌で感じた。
時計の針の音が聞こえた。

私も‥そろそろ前に進まないと。

その場で大きく背伸びをした。外の空気をいっぱい体の中に吸い込んだ。

『ありがとう。リュウジ‥』

私は、龍二が待つ家に向かった。


そんな私の旅立つ姿を、一人の男性が暖かく見つめていた。

『ありがとう。陽菜‥』

彼もまた、自分の歩むべき道に一歩ずつ進み始めた。


二人は最後まで「さようなら」という言葉を言わなかった。
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