忘れられない人
『ただいま~』

元気良くリビングに向かうと、龍二は携帯を片手に窓際に立っていた。

『何してるの?』

『何してるの?はこっちのセリフだよ!今まで何処にいたんだ?携帯に電話しても通話中で全然繋がらないし‥本当に心配したんだぞ!!』

本気で心配してくれている事が嬉しくて、嬉しくて‥笑ってしまった。

『そこ笑うところじゃないし!!ってか‥』

そう言って、私の頬を両手で触ってきた。

『こんなに冷たい‥。いくら朝だからって、まだ気温は低いんだぞ?何処か行くときはちゃんと場所をおしえ‥‥おわっ!?』

私は話の途中に龍二の胸に飛び込んだ。その勢いで龍二をソファーに押し倒し、私が上に覆いかぶさる形になった。


「これでいいんだよ。素直になろう‥」


『ひ、陽菜!?』

今までに見たことのない私の様子に、龍二は少し驚いていた。

『龍二は私の本当の姿をまだ知らないんだよ‥それを知ったら‥嫌いになるかもね?』

そう言いながら、右手で龍二の両手を押さえた。

『嫌いになんて‥‥んっ!!』

耳を軽く噛むと龍二が少し仰け反った。

『どうかな?今までの私は‥本当の私じゃないの。龍二に嫌われたくない‥そんな想いから作り出されたもう一人の私。本当の私はもっとわがままで自分勝手な女なの‥』

もっと言いたいこと、伝えたいことがあったのに‥龍二の唇で口を塞がれてしまった。その上、いつの間にか龍二と私の立ち位置が逆になっていた。
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