忘れられない人
こいつの笑顔を見て、漸く自分の気持ちを知った。

そうか。そうだったんだ‥
こいつの事「嫌いじゃない」って思ってたけどそうじゃない。俺は‥掴み所がないこいつが好きなんだ。バカ正直で、彼女一筋の無鉄砲野郎が(笑)

確かにお前が言うように、幸せそうなカップルや夫婦を俺は見てきた。でも‥俺が見てきた中で、お前が一番幸せそうだぞ?今の自分の顔、鏡で確認しろよな‥恥ずかしい。

俺まで照れるじゃねえか。

そんな俺の気持ちを悟ったかのようなタイミングで、こいつは俺に微笑んだ。


『陽菜を守ってくれな』

そうか。お前の好きな女の名前は「陽菜」って言うのか。俺のご主人様は「陽菜」

‥お前の名前は?
お前は何て言うんだよ?
箱に終われる前に名前‥聞きたかったな。


そんな事を思っているうちに、俺は綺麗な箱の中へ‥こいつは指輪の支払いへと移った。



『ありがとうございました』

従業員は、こいつに向かって一礼をした。

『こちらこそ、こんな時間になるまで付き合っていただいて本当にありがとうございました』

こいつもまた、従業員に向かって一礼をした。

『明日、頑張って下さいね』

こいつの頬が見る見る緩んでいき「はい!!」と、大きな声で返事をして店を後にした。


こいつが店を出たときにはもう、台風が来た形跡が一つも残っていなかった。
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