忘れられない人
それからどのくらいの時間が経過したのだろう。玄関の扉が開く音と数人の話し声が聞こえた気がした。俺にしか聞こえていないみたいで、こいつは寝息を立ててまだ寝ていた。

知らされていないんだろうか?
何か大きな物を部屋の中に運んでいるような‥そんな音が響く。


『ありがとうございました』

今度は確かに聞こえた。女の声だ。こいつに気を使ってなのか、それとも他の理由なのか分からないが、女の声はとても小さかった。

こいつは起きなくてもいいんだろうか?
俺は箱の中にいるし、どうすることも出来ないが‥。


ビリビリ ビリー
すると今度は何かの袋を開けるような音が聞こえてきた。

流石にこれだけ大きな音が聞こえれば、寝息を立てて寝ていたこいつも起きる。

『ふぅ~良く寝た』

そう言って真っ先にしたことは欠伸だった。

おいおい!?手伝わなくてもいいのかよ?
相変わらずリビングから慌ただしい音が鳴り響いているが、こいつが次にした行動は「本を読むこと」だった。

この部屋から出ようとはしないって事は‥何をしているのか知っているのか?その割には‥

リビングをやたら気にしているような。


しばらくの間こんな状態が続いたが、徐々に「ドカン」とか「ガシャン」とか、何かを落としているような音まで聞こえてくるようになった。

等々というか、漸く心配が頂点まで来たらしく、部屋を飛び出していった。


リビングの扉付近まで行ったのはいいが、部屋の中に入ろうとはしない。何か躊躇っているのか?

それでも、存在に気付かれないように隠れながら、そっと扉に手を伸ばした。


『まだ入ってこないで!!』

女の焦り声が聞こえ、こいつは咄嗟に伸ばしていた手を引っ込めた。
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