忘れられない人
『あっ、悪い。でも‥大丈夫か?さっきから大きい音が聞こえてきてさ』

『心配しないで。‥もう少しで終わるから部屋で待ってて』

『あっ、うん分かった。何かあったら‥』

『大丈夫だから』

そう言われて、こいつは仕方なく部屋に戻って来た。未だ納得がいかない様子だ。


‥その後も何度も大きな音が途絶えることはなかった。

心配する思いは徐々に高まり、こいつは何を想ったのか俺を掴んで部屋を飛び出した。


百歩譲ってそこまでは良かったとしよう。でもこの先が重要だ。

さっきはどうしてバレてしまったんだろう?
気付かれないように隠れているつもりでも‥女にはこいつの存在が丸分かりだ。

‥ん!?丸分かり?

そっか。
俺には、どうしてこいつの存在がバレたのか納得がいく答えが見つかった。でも、こいつは気付いていないようだ。とりあえず、さっきよりも慎重に動いてリビングまで近寄って行った。

その位置からだと、部屋の中の様子は見えないけど女の独り言は聞こえてくる。


お前バカだな。
リビングの扉はガラス張りになっているから、シルエットになっているんだよ。扉から少し離れれば映らないんだよ‥って、おい!?

こいつは大胆に、リビングの扉に背中を付けて座っていた。


それなのに‥
黒い影が見えるはずなのに‥

女は気付かない。
さっきは「まだ入ってこないで!!」って啖呵切ってたのに‥

この女も相当の鈍感だな(笑)

少しずつだが、こいつ等の性格とかが見えてきた。一生懸命さとか一途な想いとか‥やっぱり、こいつ等の事好きなのかも。


しばらくすると慌ただしい物音が聞こえなくなっていた。
< 119 / 140 >

この作品をシェア

pagetop