忘れられない人
ガチャ
内側から扉を開けた。

『陽菜、どこにいるんだ?って何だこれ?』

既に見て驚いた家具にもう一度歓声をあげた。すると奥の部屋から陽菜が出てきた。


『な、何で部屋に入ってきてるのよ!?私まだ‥』

頬を大きく膨らませて怒っている。龍二は「悪い」と素っ気無く言いながら陽菜に近づいた。

『今日、何かいつもと感じが違う。前髪かな?何かした?』

すると陽菜の様子が急変した。さっきまで怒っていたのに照れ笑いをしながら俯いた。

『ううん。何もしてないよ』

嘘をついている事は分かっていたけど、陽菜が嬉しそうだったのでそれ以上追求はしないようだ。こいつ‥演技といい食えない奴だな。


『気のせいか』

『そうだよ』

短く返事をした後、龍二に向かって微笑みながら腕に寄りかかった。陽菜の髪の毛の感触と程よい体温が伝わってきて、昨日と同じ行動を起しそうになった。今すぐ抱きしめて唇を奪いたい。

でも、陽菜の気持ちを無視して暴走したくなかったので、自分を抑え何もしなかった。龍二は、真剣に整えていた陽菜の前髪をクシャクシャにして間接的に離れるように指示を送った。


『もう、何するの?』

機嫌を損ねてしまったが、襲って気付けるより全然良い。薄っすら笑みをうかべて「何のこと?」と言いながら真新しいソファーに座った。

座り心地は完璧だった。陽菜が龍二の顔を覗いてきたとき目を閉じた。気配で笑っているのが分かり、しばらく眠ったフリをしていた。


その間、こいつは俺を探していた。ポケットからすぐに出せるようにする為だろう。でも‥どんなタイミングで渡すつもりなんだ?

豪華な食事の席でもなく、ましてや何処か行く感じでもない。もしかして‥昨日話していたデートって、こいつの家でジャレ合う事を指していたのか?そんな中でのプロポーズでイイのか?

俺は不安な思いをかき消すことが出来なかった。
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